SDGs

SDGs経営ガイド 4/4

4 「科学的・論理的」な検証・評価

多面的な視点から全体像を俯瞰し、評価と説明を行う

一見、SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても、視点を変えれば、別の面でプラスの影響をもたらしていることがある。
真のSDGs経営を実現するためには、一面的な印象論・感情論に流されない「科学的・論理的」な検証が不可欠であり、この価値観が、幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である。

「科学的・論理的」な検証・評価を徹底する/させる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではない。エネルギーに係る取組については環境負荷(目標13ほか)のみならず安定供給・効率の改善・レジリエンス(目標7ほか)といった観点からも捉え得るように、企業の取組がSDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては、多面的な検証が必要となる。
この際、徹底されるべきは、特定の価値観や印象論に流されない「科学的・論理的」な検証・評価であり、データに基づくとどうか、ライフサイクルで考えるとどうか、代替オプションとの比較においてどうか、といった視座が極めて重要となる。
また、この「科学的・論理的」という視点は、投資家や評価機関が企業等のSDGsやESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ、投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される。

Points

国際標準を、積極的に活用する

「科学的・論理的」な検証・評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそが、いわゆる国際標準である。「SDGs経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば、積極的にその標準を確保することで、狙える市場を世界中に広げることが可能となる。
また、サステナブル投資やSDGs関連投資に関し、国際的にその対象を特定するような動きもあるところ、各企業においては、自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして、注意深く対処することが望まれる。

Points
Column 6. EU が検討するサステナブル・ファイナンスのタクソノミー

単一の金融市場の構築に向けて、サステナブル・ファイナンス(SF)を重視するEUは、持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策を検討している。
欧州委員会のSFに関するテクニカル専門家グループ(TEG)は、2018年12月にSFに関する「EUサステナブル・タクソノミー案」を発表した。タクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり、「サステナブルな経済活動」の基準として、気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか、他の環境目的を著しく害することはないかなど、複数の条件が定められている。タクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが、企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある。

High-Level Expert Group on Sustainable Finance 最終報告書
High-Level Expert Group on Sustainable Finance 最終報告書
Practice 10. 新たな時代における「鉄」の在り方(JFEホールディングス)

環境保護の要請が強まる中、石炭を鉄鉱石の還元に使用している高炉鉄鋼業においては、現在の技術では生産プロセスにおけるCO.排出が不可避であるため、高度な技術を用いた省エネやCO.削減等の環境負荷低減に向けた取組は大きな課題である。
JFEホールディングスは、ESG課題への取組を経営の根幹に位置付けている。「鉄」は他素材に比べて単位量当たりの製造時の環境負荷が圧倒的に低く、優れたリサイクル性を有するため、今後も文明社会の基盤として欠かせない重要な素材であるとし、鉄の製造段階だけでなくライフサイクル全体から見た鉄の優位性や持続可能性を発信するとともに、ゼロカーボンスチールの実現を目指し、さらなる革新技術の開発に挑戦している。

Practice 11. 消費者の満足度向上と資源保護の両立(セブン& アイ・ホールディングス)

セブン&アイ・ホールディングスでは、消費者の利便性や満足度の向上と環境への配慮の両立を実践している。
例えば、店頭で使用済みペットボトルの回収を行い、最終的にリサイクルペット材を使用した商品を販売する循環経済の構築や、国内最大級の野菜工場の稼働により、野菜の無農薬栽培・安定収穫を実現しつつ、歩留まり改善によるフードロスや水資源使用量の大幅削減に取り組んでいる。

5 長期視点を担保する経営システム

揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない。
企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせ、それをしっかりと引き継ぐ仕組みがあれば、経営者が変わったとしても、企業は長期的に取組を継続し、価値を創造し続けられる。

SDGs経営を「仕組み」で持続させる

社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い。経営者が変わろうとも、そのミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば、安定的な経営の礎となり、投資の呼込みにもつながる。

Points
Practice 12. 「企業理念経営」の浸透とそれを引き継ぐ仕組み(オムロン)

オムロンでは企業理念の重要性を意識し、企業理念が確実に現場に浸透するとともに、経営者の交代によっても引き継がれるような経営を行っている。
「価値を生み出せるCEOの任期が長く、そうでないCEOの任期は短くなる」仕組みを構築すべく、CEOに後任を指名する権限を与えず、社長指名諮問委員会において、続投の是非を客観的に厳しくチェックしている。
加えて、サステナビリティ評価を中長期業績連動報酬に組み込むことで、経営層が長期的な視点を維持できるような仕組みを作っている。
また、社長と現場の社員が交流する「社長車座」や、グローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について、他の社員の前で発表する「TOGA(The OMRON Global Awards) 」と呼ばれる活動などを通じて、現場の社員とも積極的に企業理念の共有を図っている。

6 「価値創造ストーリー」としての発信

ステークホルダーの理解を得た取組こそが、社会課題解決とビジネスの両立を可能にする

企業の価値観やビジネスモデル、戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すことは、各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない。
企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うために、ステークホルダーはそれを理解するために、それぞれ不断の努力を重ねることが期待される。

「価値創造ストーリー」を描き、発信する

企業のSDGsに係る取組も、個別の取組としてではなく、その企業の「価値創造ストーリー」の中に位置づけて発信する必要がある。この際、『価値協創ガイダンス』(2017年5月/経済産業省)は有用な指針となる。
また、短期のビジョンのみならず、10年、20年といった長期のビジョンが示されることも併せて重要となる。

Points

「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する

情報の発信に際しては、「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し、選ばれたい相手に最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある。

Points

的確に伝え、対話し、更なる価値創造へ

日本企業は、これまで、自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な面もあった。他方、海外には、自社の取組を積極的に、かつ、分かりやすく伝えている企業が数多くある。国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ、的確に情報発信をし、フィードバックを受け、それをその後の経営に生かしていくことで、更なる価値創造につなげることができる。

Points
Practice 13. 社会的文脈と相手方に沿った情報開示(ユーグレナ)

ユーグレナは、社会的文脈に沿った情報開示を積極的に行っている(「自社のビジネスをSDGsに沿って説明すると、マルチステークホルダーのパートナーリングが獲得しやすくなる」(出雲社長))。
また、アクティブ投資家とパッシブ投資家で、IR活動上の課題や説明資料を変えるなど、相手に応じた柔軟な対話も実施している。

Column 7.『価値協創ガイダンス』フレームワーク

経済産業省は、企業と投資家の対話における共通言語として、『価値協創ガイダンス』を2017年5月に策定。自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で、「戦略」においてSDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している。
また、価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に、「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として、企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される。

価値協創ガイダンスフレームワーク

おわりに

企業がいかにしてSDGsを経営に組み込むべきか、そのような取組をESG投資の視点からどのように評価すべきか、という課題は、現時点において明確な答えが出されていない、世界中で模索が続けられているテーマである。
本研究会では、このテーマを真正面から捉え、SDGs経営に向けて先進的な取組を進める企業のCEO、そのような取組をESGの観点から企業評価に組み入れようとする投資家、自らの使命としてSDGsを活動の根幹に据える大学の長が一堂に会し、自らの実践に根ざした議論を行った。政府も含む様々なプレーヤーが、それぞれの視点・立場から、今後の方向性を探求した本研究会は、これまでにない新たな産官学の対話の場であった。

本研究会にゲスト参加したWBCSDのピーター・バッカー代表からは、以下のような発言があった。
本研究会のような場を通じた連携は極めて重要となる。自分は世界のどこに行っても、日本を例として必ず紹介する。総理とビジネスリーダーとの間でSDGsに関するラウンドテーブル(SDGs推進円卓会議)が行われることは世界でも珍しい。また、このSDGsとESGを掛け合わせた研究会も、世界的にまれな進んだ取組である。

本ガイドは、SDGs経営に向けた実践と挑戦、関係者による真摯な対話から生み出された。したがって、社会課題解決を本業に組み込み「既存事業へのSDGsラベル貼り」を超えようとする企業、そしてSDGsを新たなチャンスとして市場や産業を作り出していこうとする企業にとって、本ガイドは実践に向けた一歩を踏み出す羅針盤となるだろう。
また、企業のSDGsに係る取組を評価しようとする投資家、新たな産学連携のかたちを模索する大学や研究機関、そのような動きを支える政府や国際機関、NGO等、SDGs経営・ESG投資に関心を有する幅広いステークホルダーにおいても活用されることを期待したい。

本研究会では、多くの日本企業において、「事業を通じて社会に貢献する」という「SDGs経営」に通じる価値観が「当然のもの」として存在し、行動の原則として意識されてきたことが改めて確認された。一方で、それを効果的に発信し、世界中のステークホルダーに伝えていくことが、今後の課題として強く認識されている。

本ガイドが、各企業が情報発信や対話を行う上での参考となることはもちろん、国内外の企業や投資家、各国政府や国際機関等からのフィードバックを得ながら、世界中で取り組まれている「SDGs経営」を模索する旅の一助となることを期待したい。
このような探求と対話を通じて、企業経営がSDGsを組み込み、企業を取り巻くステークホルダーの意識や行動が変わっていくこと、そうした動きがSDGsの達成、さらにはその先も見据えた社会課題の解決に貢献することを祈念する。