SDGs

SDGs経営ガイド 3/4

Part 2. SDGs経営の実践

1 社会課題解決と経済合理性

長期的視点で社会課題解決に取り組み、経済合理性を創り出す

いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は、先人たちが経済合理性を見出し得なかった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる。
視点を変え、イノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくことは、まさにSDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである。

経済合理性を見出し、新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は、企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる。他の企業やアカデミアとも連携しつつ、新しい技術やノウハウを動員することで、果敢にこのような市場を切り開き、課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現である。その際、長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし、情報発信をしていくことが重要な要素となる。

Points
Practice 5. IoT/FinTechを活用したオートローン(Global Mobility Service)

Global Mobility Serviceでは、遠隔で車両のエンジン起動制御を可能とするIoTデバイスを活用し、ローン返済が滞らないかぎり車両を利用できる仕組みを構築した。これにより、これまでオートローンの審査に通らなかった貧困層の人々でも車を持ち、仕事をすることができる機会を提供している。
金融サービスを受けられない貧困層の救済や、古い車両を利用することにより発生する排気ガスや騒音の改善といった社会課題を解決する中で、経済合理性を創出することによって、サステナブルな取組としている。

Practice 6. 規制導入によるコスト増等を共同物流プラットフォームで解決(日本通運)

日本通運では、「物流企業としてCO.排出量削減にこだわる」ことを明確に打ち出し、環境配慮車両への切り替えやモーダルシフト・共同配送の推進や、サプライチェーン全体の結節点ならではの提案も行っている。
医薬品流通に関する規制である「医薬品適正流通範囲」(GDP)の導入により、製造・流通過程における管理が厳格化され、医薬品サプライチェーン全体でコストアップが見込まれた際、GDPに準拠した医薬品物流ネットワークの構築を提案。医薬品メーカー間の共同物流をサポートし、コストの削減と品質の確保、さらにはCO.削減、自社の事業拡大を実現している。

2 重要課題(マテリアリティ)の特定

自社が有する資源は何か、それをどのようにSDGsに結びつけるか

普遍的なゴールが並ぶSDGs。闇雲にその全てを追い求めるのではなく、自社の経営資源を投入して解決すべき社会課題は何なのか、自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない。

重要課題を特定し、資源を投入する

SDGsは、各プレイヤーに17の目標、169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない。自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し、関連の深い目標を見定めることで、自社の資源を重点的に投入することができ、結果として、自社の本業に即した、効率的なSDGsへの貢献が可能となる。

Points
Practice 7. 「まちづくり」を中心とした重点課題の整理(三菱地所)

「まちづくり」を行う不動産事業は、人々が暮らす空間に大きな影響を与える。
三菱地所では、「まちづくり」をテーマに「社会と共生したまちづくり」、「環境」、「先進的なまちづくり」などをCSR重要テーマとして設定し、事業を通じた持続可能な社会の実現を目指している。具体的には、災害に強い安全・安心なまちづくりの推進、業種業態の垣根を越えた交流を生み出すオープンイノベーションフィールドの設置、地域全体で環境負荷を低減し循環型社会を目指す地域冷暖房システムの構築といった取組を進めている。

3 イノベーションの創発

SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す

これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには、非連続的なイノベーションを生み出すとともに、新規事業をスケールさせていく必要がある。トップのコミットメント、長期的な研究開発視点、オープンイノベーション、「出島」による試行錯誤などを通じて、イノベーションは加速する。

社会課題を解決するイノベーションを「協創」する

社会課題を解決するためには、イノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの創出がカギとなる。新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければ、オープンイノベーションの促進、大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など、他の企業やアカデミアとも柔軟に連携して、イノベーションを「協創」していく発想が必要となる。また、非連続的なイノベーションを生み出すためには、長期的視座に立った研究開発も重要である。

Points

経営者自身が新規事業をリードする

企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも、経営者のコミットメントがなければ、推進力を得られず、形にならない。経営者には、可能性のある新たなチャレンジを見極めて、自らがその事業をリードしていく役割が求められる。

Points
Column 5. 「出島」や「2階建て経営」の実践

会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ、人材や資金を投入することは、イノベーションを促す一つの手法である。
また、大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論するInnovation100委員会においては、イノベーションを興すための行動指針を策定しており、その中で、「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している。

出所:日本経済団体連合会「Society 5.0 -ともに創造する未来-」(2018年11月13日)より抜粋

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針
① 変化を見定め、変革のビジョンを発信し、断行する。
② 効率性と創造性、2階建ての経営を実現する。
③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する。
④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する。
⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する。

出所:Innovation100委員会レポート
Practice 8. Sony Startup Acceleration Program(ソニー)

イノベーションを生み出すための環境整備は、経営戦略としてトップのコミットメントの下、意識的に取り組む必要がある。ソニーの「SonyStartup Acceleration Program」(SSAP)は、2014年に社長が陣頭指揮を執って始まったスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムである。これまでに社内で国内外750件の新規事業案件を審査し34件を育成、14の事業立ち上げにつなげてきた。これらの事業育成や立ち上げを通じて培ってきた経験やノウハウをプログラムに反映することで、持続的に新しい事業を生み出していける仕組みの構築を進めており、その内容は日々進化している。
また、SSAPで培われた経験やノウハウを、スタートアップ支援サービスとして社外にも提供している。本社オフィス内に社外の新規事業プロジェクトが入居可能なスペースを設置するなど、社外との連携を強化することで、オープンイノベーションを推進し、斬新かつ革新的なアイデアやサービスが生まれるような環境整備に取り組んでいる。

Practice 9. オリセット®ネットによるイノベーション(住友化学)

住友化学は、工場の虫除けの網戸の技術をもとに、マラリアに苦しむ人々に役立つ防虫剤処理蚊帳「オリセット®ネット」を開発した。
国連児童基金(UNICEF)などの国際機関を通じて80ヵ国以上に供給されているこの商品は、タンザニア、ベトナムで製造することで現地に雇用を生み出し、地域経済の発展にも寄与している(タンザニアでは最大7,000人の雇用機会を創出)。
また、収益の一部で教育支援も行っており、イノベーションによる社会課題の統合的な解決を実現している。