SDGs

SDGs経営ガイド 1/4

2019年5月に経済産業省が発表した『SDGs経営ガイド』を回を分けてご紹介します。

はじめに

2006年に国連が責任投資原則を提唱して以降、持続可能性を重視するESG投資は急速な拡大をみせている。そのような中、2015年の国連サミットにおいて、グローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)が採択された。
今や世界中の企業がSDGsを経営の中に取り込もうと力を注いでおり、日本においても、SDGsを経営に組み込むべく様々な取組が進められている。

日本企業や日本社会の価値観がSDGsに親和的であるのは論を待たない。後述する「SDGs経営/ESG投資研究会」においても、多くの委員から以下のような認識が重ねて示された。
会社が世のため人のために存在するという考え方は、日本では、「三方よし」の精神や渋沢栄一の道徳経済合一説においてみて取れる。日本企業は古くから社会課題を捉えて成長を実現してきた。
他方で、SDGsに係る企業の取組については、「既存の取組にSDGsの各ゴールのラベルを貼るにとどまっている」との評価が存在するのもまた事実である。
それでは、どうすれば「既存の取組へのラベル貼り」を乗り越え、SDGsにビジネスチャンスを見出して、本業の中に取り込めるのか。企業によるビジネス・本業とSDGsや社会課題解決の関係はどうあるべきか。このような国際的な潮流の中で、日本企業はどのような「強み」を発揮できるのか。

本ガイドは、経済産業省において2018年11月に立ち上げた「SDGs経営/ESG投資研究会」における議論の成果を取りまとめたものである。
本研究会においては、日本を代表する企業のCEO、投資家、大学の長が、上記のような容易ならざるテーマに正面から向き合い、多面的かつ掘り下げた議論を行った。この中で、日本企業がいかにSDGsを本業として経営に取り込むために力を尽くし、世界に先駆けた具体的な取組を進めているかが明らかになったが、そのエッセンスが、本ガイドに凝縮されて詰め込まれている。
本研究会の冒頭、座長である伊藤邦雄特任教授は次のように述べた。
今後企業がさらにサステナブルな成長を遂げるには、SDGsやESGと向き合う必要がある。これは本質的かつ普遍的な取組になる。
SDGsに係る取組は、企業にとっても一過性のブームであってはならない。それは、現代社会において、「企業」の存在意義を問い直し、再定義し続ける試みである。
本ガイドが、ビジネスの力で社会課題を解決し、さらなる企業価値の向上に向けた不断の努力を続ける世界中の企業にとって、また、そのような取組を支える国内外の投資家、関係機関あるいは各国政府にとって、今後の取組の羅針盤となることを期待したい。

持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)

持続可能な開発目標(SDGs)は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。
持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)ことなどを謳っている。

SDGs
SDGs
SDGsの5つの特徴
SDGsの5つの特徴

SDGs経営の推進に係る政府のイニシアティブ

日本政府においては、2018年6月にSDGs推進本部がとりまとめた「拡大版SDGsアクションプラン2018」の中で、「SDGs経営推進イニシアティブ」を進め、企業等の経営戦略へのSDGsの組込みを推進することとしており、この点については、「SDGsアクションプラン2019」(2018年12月SDGs推進本部決定)においても引き続き着実に取り組むこととしている。
経済産業省においても、2018年11月に「SDGs経営/ESG投資研究会」を立ち上げ、国内外のSDGs経営の成功事例に焦点を当てつつ、いかにして企業がSDGsを経営に取り込んでいくか、また、投資家はどういった観点からそういった取組を評価するのか等について、委員である日本を代表する企業のCEO、投資家、大学の長に加え、国際機関等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきた。本ガイドは、その議論の成果を取りまとめたものである。

SDGs経営/ESG投資研究会委員一覧

伊藤 邦雄 、座長一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

山田 義仁、オムロン株式会社 代表取締役社長CEO

十倉 雅和、住友化学株式会社 代表取締役社長

五神 真、国立大学法人東京大学 総長

吉田 淳一、三菱地所株式会社 執行役社長

澤田 道隆、花王株式会社 代表取締役社長執行役員

井阪 隆一、株式会社セブン&アイ・ ホールディングス 代表取締役社長

齋藤 充、日本通運株式会社 代表取締役社長

垣内 威彦、三菱商事株式会社 代表取締役社長

中島 徳至、グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

吉田 憲一郎、ソニー株式会社 取締役 代表執行役社長兼CEO

荻原亘、野村アセットマネジメント株式会社 執行役員 運用調査副本部長 株式CIO

出雲 充、株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

林田 英治、JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

永野 毅、東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループCEO

福島 毅、ブラックロック・ジャパン株式会社 取締役CIO

オブザーバー

外務省
株式会社日本取引所グループ
金融庁
一般社団法人日本投資顧問業協会
公益社団法人経済同友会
独立行政法人日本貿易振興機構
一般社団法人日本経済団体連合会
一般社団法人Japan Innovation Network

ゲストスピーカー

Achim Steiner、国連開発計画 総裁

水野 弘道、年金積立金管理 運用独立行政法人 理事兼CIO

Peter Bakker、World Business Council for Sustainable Development  President and CEO

事務局

経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

五十音順・役職は本研究会開催時点(2018年11月)のもの

本ガイド中の
Points
は、SDGs経営/ESG投資研究会に参加した大企業・ベンチャー企業の経営者、機関投資家のCIO(最高投資責任者)、大学の長、国際機関などの重要な発言をまとめたものである。

Part 1. SDGs ― 価値の源泉

1 企業にとってのSDGs

SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには、世界で年間5~7兆ドルの投資が必要とも言われる。これは、いまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る。企業にとってのSDGsとは、無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に、未来の市場を創造・獲得するための「機会」でもある。

SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは、国連総会で合意された2030年までの世界共通の目標であり、世界中の多くのプレイヤーが、SDGsを一つの前提条件として活動している。SDGsの目標が示すものは、満たされていない世界のニーズ、すなわち未開拓の巨大な市場であり、目標を達成するためには、多様なプレイヤーの参画が不可欠である。

このような中で、企業はSDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミュニケーションをしながら、同時に、SDGsというフレームワークの中で評価される、そんな時代が訪れている。

Points

SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは、2030年までの世界の「あるべき姿」を示している。「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなく、この将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である。

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何か、そこからバックキャストして描ける道筋はどうか、そのために必要となる投資やイノベーションは何か。単に既存事業にSDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなく、SDGsという「未来志向」のツールを活用して、自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる。

Points
Column 1. SDGsが生み出す市場

国連開発計画(UNDP)によれば、SDGsの野心的な目標を達成するために、世界で年間5~7兆ドルの資金が必要となり、投資機会は途上国で1~2兆ドル、先進国でも最低1.2兆ドルとも試算される。

さらに、SDGsが達成されるならば、労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し、2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている。

出所:UNDP提供資料
出所:UNDP提供資料

日本企業の理念とSDGs

近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られるように、「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い。

日本企業にとってSDGsとは、決して舶来の未知のものではなく、企業理念や社訓を礎に、長らく自ずと意識し実践してきた取組が、別の形で具体化されたものといえる。

Points

ベンチャー企業とSDGs

多くのベンチャー企業にとっては、企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目指したものである。「貧困問題を解決したい」、「地球温暖化を食い止めたい」、そうしたミッションのもとに設立された企業は、会社そのものがSDGsの理念と軌を一にした存在となる。

Points

2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-

SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける

投資判断において投資家が着目するのは、過去ではなく、将来の企業価値である。社会の価値観が変化する中で、投資先の競争力が失われるリスクが存在するのか、あるいは長期的・持続的な成長が期待できるのか。
SDGsやESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである。

投資家を取り巻く環境変化

持続可能性に対する人々の意識が高まる中、各国の規制や顧客の選好の変化が、ESG投資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている。

Points
Column 2. ESG投資の拡大
  1. UNPRIの署名機関
    ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し、2019年3月時点において、機関数にして2,300、運用規模にして85兆ドルを超えた。PRIには年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年9月に署名しており、2019年5月時点で日本の署名機関数は75社、第10位となっている。
  2. GSIAによる分析
    世界のサステナブル投資残高は、2016年に約22.9兆ドルであったが、2018年には約30.7兆ドルと拡大。日本においても約0.5兆ドルから、約2.2兆ドルと拡大している。
出所:UNPRI公表資料をもとに作成
出所:UNPRI公表資料をもとに作成
出所:Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋
出所:Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

長期的な企業価値の評価とSDGs

投資家が知りたいのは、企業の過去ではなく、未来における価値である。投資先の企業が語るビジョンは、社会の未来像と合致するものなのか。―それを測る物差しこそが、ESGでありSDGsである。

Points
Column 3. SDGsとESGの関係

投資家によるESG投資と、民間企業のSDGsへの取組は裏表の関係にある。世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、ESG投資とSDGsの関係について、民間企業がSDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し、企業価値の持続的な向上を図ることで、ESG投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している。

SDGs経営を行う企業のパフォーマンス

学術的なコンセンサスはいまだ得られていないものの、SDGsやESGを積極的に経営に取り込む企業は、他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある。

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業・投資家双方が正しく認識・評価し、持続的・長期的な企業価値向上を促していくことが期待される。

Points
出所:GPIFウェブサイト
出所:GPIFウェブサイト